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執筆者の写真三香美 晋道

四万六千日


今回は金沢の四万六千日について書きたいと思います。特別専門的に古文書などで調べた訳ではないので、口伝のたぐいのものと思ってお読みください。

旧暦で7月9日は四万六千日といわれる観音様の縁日にあたり、その日にお参りすると四万六千日お参りするのと同じだけの功徳を得られるといわれています。浅草の浅草寺の鬼灯市が有名ですが金沢に住む人にとっては観音町にある観音院さんの四万六千日が最も馴染みが深いのではないかと思います。観音院さんでは、旧暦の7月9日に合わせて四万六千日の法要を勤めているそうなので毎年少しずつ日にちは変わりますが、その時期になると金沢市内のあちこちでお馴染みのガリ版のポスターを見かけます。そのポスターを見かけると、また今年もとうもろこしの時期が来たなと思います。

 四万六千日にとうもろこしと聞いて、馴染みの無い方は、「ん?」と思われることでしょう。観音院さんの四万六千日にお参りした方は皆とうもろこしをいただいて帰ります。そして、そのとうもろこしを家の玄関先にかけるのです。金沢の東茶屋街周辺を歩いてみるとかなりの確率で家の前、お店の前にとうもろこしが吊るしてあるのを見かけると思います。四万六千日でいただいたとうもろこしを玄関先に吊るしておくと様々なご利益があると言われています。金沢城も何度か被害にあったみたいですが、北陸のほうは雷が多く良く建物に雷が落ちたようで、雷除けになるといったことや、とうもろこしは沢山の粒がついているので子宝に恵まれるといったこと、とうもろこしには立派な髭がついていて毛が沢山あるので儲毛があるといったご利益があると伝えられています。そういったことから、家の前に吊るしておくと厄除けと招福のご利益があるとして毎年四万六千日には新しいとうもろこしをいただき古いものと掛けかえるという風習が今も続いており、沢山の方が招福と厄除けを願い四万六千日にお参りされているようです。なぜ雷除けにとうもろこしだったのかは、あまり由来を聞いたことはありませんが、雷と同じ黄色のものをさげておくと雷が除けていきそうといったような思い付きがあったのかもしれません。

 いつ頃から観音院さんが四万六千日にとうもろこしを配りだしたかは私も良く知らないのですが、今ではすっかり金沢の夏の風物詩になっていると思います。北陸新幹線が開通してからは県外から来られた方も増えたそうで午前中の早い時間に行かないと、とうもろこしが無くなってしまうそうです。しかし、観音院さんの賑わいを受けて金沢中のお寺が四万六千日にとうもろこしをお配りしているということでもないようです。私も金沢のお寺を調べて回ったわけではないので詳しい現状は分かりませんが。

 崇禅寺では毎年8月9日の四万六千日と地蔵尊大祭を勤めてとうもろこしをお配りしていますが、歴史的には私の二代前の27代住職の龍圓泰定和尚が観音院さんの四万六千日の賑わいを見て崇禅寺でも四万六千日の日にとうもろこしを配るようになったと聞いています。資本主義の社会の中ではヒット商品が出ると、それに類似した商品が沢山出てきますが、お寺では意外とそうゆう動きは鈍いのかもしれませんね。そうゆう意味では先々代の住職は崇禅寺の四万六千日の賑わいのために思い切って真似させていただいたのかもしれません。こうして地域に残る風習がどんな風に出来てきたのかと考えると、当時生きていた人たちの願いや歴史が想像出来て、改めて自分の願いや歴史についてかんがみる時間になるかもしれません。

 最後に写真に写っている門守餅(かどもりもち)を紹介させていただきます。今年(2020)年から四万六千日に合わせて発売された和菓子で、五平餅に似たような形をしており、道明寺の中にとうもろこしが入っておりその上に甘辛いタレがかけてあります。知り合いのお菓子屋さんからいただいて食べたのですが、なかなかに美味しいお菓子でした。今まで金沢にはあまりないタイプの和菓子だなと思いました。名前もおそらく玄関先にとうもろこしを吊るして厄除けと招福を願うことにちなんだ名前で門、入口を守る餅と命名したのではないかと思います。金沢では毎年7月1日に氷室饅頭を食べてこの夏の無病息災を願うという風習がありますが、この門守餅も何十年か後には四万六千日の観音様の縁日には門守餅を食べて一年間の厄除けと招福を願うということが当たり前の風習になっているかもしれませんね。

 今我々の目の前に出現するすべてのものごとは、突然何もないところから出現してきたものはひとつもない。日々の行いが未来の自分、また周りの人達に何かを伝えていくことでしょう。

 









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